研究開発

高品質・高機能な建設材料の開発・提供により次世代ニーズに対応するとともに
脱炭素・資源循環に関わる技術開発に
挑戦し、持続可能な社会の構築にも貢献
研究所(宇部)
研究所(横瀬)

セメント研究の長年の知見を結集し、流動性、強度、耐久性や低環境負荷等、様々なニーズに対応する高性能なセメント・コンクリートやセメント系固化材の開発に加え、廃棄物・副産物の利用技術開発に取り組んでいます。
また、CO2の削減・利用技術開発も推進し、カーボンニュートラルの実現に向けて挑戦しています。
最先端の研究技術を獲得し、将来に向けての研究基盤の強化を継続的に進めています。

セメントについて

日本のセメント産業では、140年以上の歴史のなかで、ビルやダム、トンネル、橋など、さまざまな社会基盤を整備するための基礎素材を開発・提供し、社会と人びとの繁栄に大きな役割を果たしてきました。
また、セメント製造では、CaO、SiO2、Al2O3、Fe2O3を含むものを原料として利用でき、且つ1400~1500℃の高温で処理することで無害化されることから、廃棄物・副産物を多量に有効活用して「循環型社会」構築の大きな役割を担っています。
その一方で、主原料が石灰石であること、製造過程で高温処理するための熱エネルギーが必要であることから、地球温暖化問題の要因のひとつである二酸化炭素も多く排出しています。そのため、二酸化炭素排出量低減に向けて更なる省エネルギーに取り組むとともに、CO2を回収・利用する技術開発にも取り組んでいます。

セメント製造工程の図

研究開発領域

当社グループの研究開発領域は、主力事業のセメントをはじめとする社会インフラ構築用の材料開発に加え、持続可能な社会構築に向けた脱炭素・資源循環・環境改善の領域も含めて多岐に渡ります。
また、事業領域を拡大するために海外展開も視野に技術・ノウハウを蓄積し、新たな事業創出に向けて先端技術の獲得にも挑戦しています。

脱炭素化社会(カーボンニュートラル)への挑戦

地球温暖化対策として、当社グループ全体のカーボンニュートラル達成に向け、CO2削減・利用技術・プロセスの開発に積極的に取り組んでいます。

CO2回収・メタネーション技術の実証

工場稼働エネルギーの燃料転換
(メタネーションによる合成メタンの利用)

セメント工場の排ガスからCO2を分離回収し、回収したCO2と水素から合成メタンを製造する技術、およびその合成メタンを脱炭素燃料として活用する技術の
開発に取り組んでいます。

CO2回収・炭酸塩化技術の開発

NEDO/グリーンイノベーション基金
「CO2回収型セメント製造プロセスの開発ー多様なカルシウム源を用いた炭酸塩化技術の確立」

事業の目的・概要

セメント(主成分CaO)は天然石灰石(CaCO3)の脱炭酸(CO2分離)反応に
より工業生産されていますが、廃コンクリートや一般焼却灰などCaを含有する
多様な廃棄物等からCaOを抽出し、セメント生産工程で分離されたCO2と再結合させることで、人工石灰石(CaCO3)を生成(炭酸塩化)、これを原料とした
カーボンリサイクルセメント(CRC)を製造することにより、セメント産業でのカーボンニュートラルを目指します。

  1. 1炭酸塩化技術開発

    間接または直接に炭酸塩化する2方式により多様なCa含有廃棄物に適した複数の炭酸塩化技術を開発・検証し、最適なCaO抽出・CO2固定化技術の確立を図ります。

  2. 2炭酸塩利用技術開発

    生成した炭酸塩がカーボンリサイクルセメントの焼成原料またはセメント成分となる増量材などとして利用可能かを検証し、そのコンクリートとしての性能(強度ほか)を満たす材料開発を行うと共に、設計・施工に係るガイドラインの作成を行い、社会実装を目指します。

本事業の中で当社は、廃コンクリートからのセメント微粉(CaO)の効率的な回収、およびセメント工場の排ガス(CO2)を用いたセメント微粉の直接炭酸化(CaCO3生成)について実証試験を実施します。

キルンエネルギー転換技術の開発(アンモニア燃焼)

ロータリーキルン(回転窯)内バーナーの熱エネルギー源をアンモニアに置き換え、化石エネルギー由来CO2削減技術の確立を目指します。

  • 内閣府SIP事業(H26~H30):~アンモニア混焼セメントキルンの技術開発~宇部興産株式会社(現:UBE三菱セメント株式会社)・大阪大学
10kW小型工業炉
キルン内シミュレーション結果

資源循環型社会構築への貢献

多様な廃棄物のリサイクル技術を開発し、資源循環型社会の構築に貢献しています。以下は開発したリサイクル技術の一例です。

下水汚泥発酵乾燥技術

技術のイメージ

従来:乾燥技術(燃料による加熱乾燥方式)
  • 燃料起源のGHG(温室効果ガス)排出量が大。
  • 乾燥汚泥に易分解性有機物が残存し、肥料として取り扱いに留意が必要。
従来:コンポスト化技術(堆肥舎・切り返し方式)
  • 処理日数は30~100日
  • 運転管理に経験が必要
  • 臭気対策が難しい
本技術:

廃石膏ボードの再生利用

環境貢献型製品の開発と商品化

環境浄化や自然保護に向けて環境貢献型製品の開発を行っています。

地盤改良材

国内各地の各種軟弱土を対象に、改良土の特性に関する基礎データを集約し、
セメント系固化材の開発・改良を行っています。セメント系固化材は優れた固化強度を発現できるように各種軟弱土別に水和生成物(エトリンガイトや珪酸カルシウム水和物)が効果的に生成できるよう材料設計されています。

エトリンガイトの電子顕微鏡写真

重金属不溶化材

土壌・大気・水の改良分野に環境資材を提供しています。
土壌を対象した資材では、酸化マグネシウムを主成分とした重金属不溶化材や
中性固化材の研究開発に取り組んでいます。

重金属不溶化材
土壌改良工事風景
透過型電子顕微鏡写真(汚染土壌内のフッ素(F)が酸化マグネシウム粒子に吸着している様子)

社会インフラ構築に資する高機能製品の提供

社会ニーズに応えるため、高機能な建設資材の開発に取り組んでいます。

当社のセメントが使用されている「あべのハルカス」

高強度用セメント/製品名:シリカフュームセメント

より強く、高流動なニーズに応えるべく、低熱系ポルトランドセメントに超微粒子のシリカフュームを添加したシリカフュームセメントを開発しました。
高強度マスコンクリート構造物、超高層鉄筋コンクリート構造物、充填形鋼管コンクリート柱構造物などに求められる高強度・高流動なパフォーマンスを発揮する製品で様々な構造物に利用されています。

高強度・高靱性用コンクリート用混和材/製品名:サイトハード

サイトハードは、常温硬化型超高強度繊維補強コンクリート用の特殊材料です。当社の有する特殊セメント製造技術とコンクリート配合技術を結集して開発されました。

耐塩害用特殊混和材/製品名:クロロガード

クロロガードは、セメントの一部と置換することにより、コンクリートの耐塩害性能を高めることを可能とする特殊混和材です。コンクリート構造物の高耐久化と長寿命化に貢献するため、当社の有するコンクリート配合技術と性能評価技術を駆使して開発されました。

クロロガードを使用したコンクリート製品

先端技術・基礎研究

当社グループの将来技術を担うため、シミュレーション技術の開発や新たな場所でのセメント系材料の適用に向けた基礎研究など、継続的に取り組んでいます。

シミュレーション技術の発展

セメント製造プロセスのシミュレーション技術(統合シミュレータ)は、当社が業界最先端で確立してきました。
構築したキルンシミュレーション技術は更に発展させ、廃棄物を利用したセメント製造の安定運転支援だけでなく、将来のカーボンニュートラルに向けたエネルギー
転換やCO2回収プロセスの最適設計に繋げていきます。

深海でのセメント系材料の利用

深海はレアメタルなどの新たな鉱物資源の開発などで非常に注目されている領域です。
日本を囲う海洋の開発が積極的に行われている中、当社では深海での構造物建設が必要となる未来を見据えてこれに役立つ材料開発に挑戦しています。
これまで、セメント系材料の深海条件化での耐久性調査を世界で初めて実施し、特殊なセメント配合や深海という高水圧環境での力学的ダメージを明らかにしました。
また、2022年には深海において実際に構造物をセメント系材料で接合させる要素実験を手掛け、成功させています。
これらの研究成果は国際的に論文発表し、海外でも高評価を受けることができました。

研究実績
  • Mari Kobayashi, Keisuke Takahashi, Yuichiro Kawabata, Physicochemical properties of the Portland cement-based mortar exposed to deep seafloor conditions at a depth of 1680 m, Cement and Concrete Research 142 (2021) 106335
  • Mari Kobayashi, Keisuke Takahashi, Yuichiro Kawabata, Thomas Bier, Physicochemical properties of Portland cement/calcium aluminate cement/calcium sulfate ternary binder exposed to long-term deep-sea conditions, Materials and Structures 55 (2022) 182
  • Keisuke Takahashi, Yuichiro Kawabata, Mari Kobayashi et al., Action of hydraulic pressure on Portland cement mortars – Current understanding and related progress of the first-ever in-situ deep sea test at a 3515 m depth, Journal of Advanced Concrete Technology 19 (2021) 226–239
  • Keisuke Takahashi, Yuichiro Kawabata, Mari Kobayashi et al., In-situ deep-sea monitoring of cement mortar specimen at a depth of 3515 m and change in mechanical properties after exposure to deep sea condition, Journal of Advanced Concrete Technology 20 (2022) 254–266

研究報告